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ホーム画家ロザンナについて
Rosanna Cattaneo
ロザンナ・カッターネオを語る

文・村本幸枝(日伊文化交流サロンアッティコ)


ロザンナ


「何故あなたの絵にはいつも空が描かれているのですか?」
という問いに、

「それは空を描かずにはいられないからです」
という答えが返ってきた。

「お腹が空いたらごはんを食べるように、
咽が乾いたら水を飲むように、
空を描くことは私にとってそれほど自然なことなのです。」
Rosanna Cattaneo

 イタリアでは、"Pittrice dell'anima 『魂を描く画家』" と称賛されるロザンナ・カッターネオが描き出す世界は、人々が芸術に求めたがるドラマティックな激しさはない。一瞬にして引き寄せられる力と、徐々にだが確実に内部へと浸透していくふたつの力が存在するなら、ロザンナ・カッターネオの絵画の魅力はまさしく後者であろう。それはサン・ピエトロ寺院の堂々たる、時にはおしつけがましいほどの傲慢な美しさと、『静粛』であるがゆえに、パラドックス的にその存在感を人々に印象づける、日本庭園の深みのある美しさの違いに似ている。 ロザンナ・カッターネオの絵はそういう意味において、やや東洋的であるかもしれない。

 「多くの若者がそうであるように、若い頃の私も人生そのものにドラマを求めていました。ですから、自分を取り巻く人々との関係に、日常生活の中に、創作活動に、私のまわりに存在するあらゆる事物にドラマ性を欲していました。そういう過程を超え、やっと自分自身の表現方法に辿り着いたような気がします。」
ロザンナ
空を描いた作品

 「タイトルはよく覚えていませんが、以前見たロシア映画のある場面が今でも強烈に心に残っています。
反政府家である恋人がヒロインをカフェに残して立ち去るのですが、車に仕掛けてあった爆弾によって、彼女はその恋人を一瞬の内に、しかも目の前で失ってしまうのです。強烈な爆発音と共にカタカタという音がオーバーラップして聞こえてくるのですが、それは彼女が飲みかけていたコーヒーのカップとソーサーがかち合う音だったのです。突然襲いかかった悲劇を把握できずにいる主人公の激しい心の動揺は、そのカタカタと空しく響きわたる音だけで十分過ぎるほど伝わってきました。私の求める『静かなる強さ』の表現は、そのシーンの言わんとすることとよく似ています」。

 確かにロザンナ・カッターネオの絵はとても簡素である。取り除けるものはすべて省き、残ったものだけがキャンバスを飾る。しかし、淡く美しい色彩が織りなす調和と、空と雲の表情によって生み出される独特の空間は、鑑賞する者を静かに彼女の世界へと引き込んでいく。それがいわゆる『静なる強さ』なのだろうか。

 ロザンナ・カッターネオの作品のもうひとつのテーマは二面性である。
 「存在するものすべてが持つふたつの面を意識することは、私にとって重要なことなのです。多分、私の人生におけるテーマと言っても過言ではないかと思います。肖像画も一枚のキャンバスに同じモデルをふたり描きます。私は裕福な家庭に生まれましたが、父が事業に失敗し、それまでの生活が一変してしまったという経験があります。裕福であることと、貧困であること、この両極端な体験から常にものごとの二面を捕らえることが、生きる上において非常に重要だということを教えられました。観点を少し変えるだけで、あらゆる事物が全く別のものに変わり得る可能性を秘めているということです。この世の中に存在するあらゆるものの二面性を認識した上で自分なりの調和とバランスを見い出すこと、それを常に意識しながら生きたいと思うのです」

 確固たるコンセプトを持ち続けながら創作活動を続けるアーティストが減りつつあるなか、穏やかに語るロザンナ・カッターネオの芸術を支援する人々は少なくない。